症例紹介

症例紹介:猫の内臓型肥満細胞腫

こんにちは。横浜市旭区善部町のあらた動物病院 院長の小林 新です。
今回は、内臓型肥満細胞腫の10歳の日本猫ちゃんのお話をしたいと思います。
この子は、無症状で健康診断のプレミアムコースを受けるために来院されました。

血液検査では、腎臓と肝臓の項目が軽度に上昇しており、尿検査と合わせて評価すると慢性腎臓病がありそうでした。
画像診断で、脾臓が腫大しており、超音波での見え方も不整であったので、腫瘍性病変の可能性を考えました。

オーナー様と相談し細胞診検査(脾臓に針を刺して細胞をとってくる検査)を実施しました。

脾臓からはこのような細胞が大量にとれてきました。一部の細胞は紫色の顆粒をもっており、肥満細胞と考えられました。脾臓の肥満細胞腫(内臓型肥満細胞腫)の可能性を考え、細胞診の外注検査を実施しました。
以下が結果です。

猫の肥満細胞腫は皮膚型、脾臓・内臓型、腸管型の3つに分けられます。皮膚型は皮膚腫瘍の中でも発生が多く、良性の挙動を示す場合がほとんどです。脾臓・内臓型では診断時にすでに多臓器転移を伴っている症例が多く全身性疾患となりやすいと言われています。
この猫ちゃんも、肝臓への浸潤も疑われました。

他の腫瘍であれば、他の臓器への浸潤がある場合は予後がよくなかったり、外科適応にならないことがほとんどですが、猫の内臓型肥満細胞腫は転移の有無に関わらず、脾臓摘出によって生存期間を延長することができると言われています。
オーナー様と相談し、脾臓摘出を実施しました。
当院ではシーリングシステムを導入しておりますので、従来の縫合糸による血管結紮と比べ、安全かつ短時間での手術が可能です。

脾臓の表面には複数の結節が認められました。

術前に毛刈りした時の画像です。赤丸で囲んだ部位に2-5㎜大の皮膚腫瘤が認められました。細胞診の結果、肥満細胞腫でした。内臓型肥満細胞腫の一部ではこのように多発性の皮膚病変を伴います。

術後の経過は良好で、肥満細胞腫に関連する他の症状も認められませんでした。

前述した通り、内臓型肥満細胞腫は転移の有無に関わらず脾臓摘出で生存期間を延長することができると言われていますが、術後の抗がん剤の有効性に関しては十分な情報はなく、抗がん剤の治療により生存期間が延長できるかはわかっていません。

この猫ちゃんは緊張しやすく頻繁な通院が難しい性格であったので、術後すぐには抗がん剤は実施せず、定期的に経過観察し、必要に応じて抗がん治療をすることになりました。この猫ちゃんが、少しでも良い生活を送れるよう注意深く経過観察をしていきたいと思います。

今回は、健康診断をすることで悪性腫瘍を早期発見をし、治療につなげることができました。無症状の段階で治療を開始することができ本当に良かったと思います。
健康診断では、時としてこのように隠れた病気が見つかることがあります。特に、中高齢のわんちゃんや猫ちゃんでは血液検査と合わせて画像診断の実施をお勧めいたします。
現在当院では、猫ちゃんは10月いっぱいまで、わんちゃんは11月いっぱいまで、秋の健康診断キャンペーン中です。
この機会にぜひご検討ください。

肥満細胞腫や健康診断に関することで気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

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