症例紹介

症例紹介:肺高血圧症

こんにちは。横浜市旭区善部町のあらた動物病院 院長の小林 新です。

今日は肺高血圧症という心臓と肺に関連した病気について紹介したいと思います。

15歳のチワワさん。呼吸が苦しそうで昨日はほとんど眠れていない、2日前から元気食欲がないとのことでいらっしゃいました。

来院時はチアノーゼがひどく、心雑音など認められ、心臓に異常があると考えました。酸素をかがせながらできるだけストレスがかからないように注意し、レントゲンや超音波検査、血液検査などを実施しました。

赤枠が肺

レントゲンで肺が真っ白になっていましたので、肺に水が溜まっている肺水腫を疑いました。

高齢のわんちゃんは僧帽弁閉鎖不全症(いわゆる弁膜症)に伴い肺水腫を発症するケースが多いのですが、本症例はそれとは異なる肺高血圧症という病態でした。

左が正常な心臓で、右が肺高血圧症のときの心臓です。

肺高血圧症は、さまざまな原因で心臓から肺へ向かう血管である肺動脈の血圧(肺動脈圧)が高くなる病気です。
心臓から肺への血液が送られにくくなり、肺から取り込まれる酸素の量が減ります。その結果、疲れやすくなったり、ひどい場合は呼吸困難や失神といった症状が現れます。また、肺に血液を送り出す右心室に負荷がかかり、右心室圧が上昇し、三尖弁逆流や左心室の拡張不全などが認められます。他にも腹水貯留や咳などの症状も認められることがあります。

どちらも心臓を輪切りにした断面です。赤枠は左心室(LV)を示しています。左の正常犬では左心室(LV)は十分拡張していますが、右側の本症例では右心室(RV)圧の上昇に伴い左心室(LV)が十分拡張できず、つぶれた円のような形になっています。これでは十分な量の血液が全身に送れません。
カラードプラーと言う血流に色を付ける検査になります。黄色く色がついているのが逆流信号で、本症例では肺高血圧症に伴う三尖弁逆流が認められました。

肺高血圧症を起こす原因はさまざまですが、本症例ではできるだけ早く肺動脈を拡張させ、右心室から肺への血流が流れやすい状態にする必要がありました。肺の血管を拡張させるシルデナフィルというお薬を用いて治療したところ次の日には顕著な改善が認められ、入院3日目に無事退院することができました。

退院後も症状は落ち着いており、今では昔と比べてご飯ももりもり食べてくれますし、自分から遊びに誘ってくれるようになったようです。

この子は今月16歳になります。治療が上手くいきましたので、無事誕生日を迎えられそうで良かったです。心臓の治療は生涯続きますので、できるだけ普通の生活ができるよう今後もしっかりサポートしていきたいと思います。

あらた動物病院 院長 小林 新

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