症例紹介

症例紹介:認知機能不全症候群

こんにちは。横浜市旭区善部町のあらた動物病院、院長の小林 新です。

近年、獣医療の発展によりわんちゃんや猫ちゃんの寿命は大きく伸びてきています。非常に喜ばしいことですが、高齢化に伴い発生する病気の種類も変わってきています。今回は、そんな病気の1つである『認知機能不全症候群』の症例を紹介したいと思います。

症例は15歳のミニチュアシュナウザーの女の子です。

最近、眠りが浅く、数時間おきに起きて徘徊を繰り返している。抱っこしていると寝てくれるがすぐ起きてしまう。との主訴で来院されました。

身体検査や血液検査を実施しましたが、原因となるような異常は認められなかったことから、頭蓋内の病変(脳腫瘍や脳梗塞など)や認知機能不全症候群を疑いました。

頭蓋内の病変(脳腫瘍や脳梗塞など)の有無をチェックするためにMRIを提案しましたが、全身麻酔下の検査になりますので飼い主様の希望もあり、まず認知機能不全症候群の治療を開始してみることになりました。

認知機能不全症候群の治療には、栄養療法、環境修正、行動修正、薬物治療などがあげられます。

栄養療法としては以下の、療法食、サプリメントなどが挙げられます。

今回は療法食よりサプリメントの方が始めやすいとのことだったので、サプリメントをはじめてみることになりました。

治療を開始してからは、眠りが深くなり、これまでは抱っこしないと寝てくれなかったのが、自分1人で寝られるようになり徘徊も減ったとのことで、大変喜んでいただきました。今後は、サプリメントを用いた栄養療法に加えて、環境の改善や、知育トイなどを用いた行動修正を実施してく予定です。

犬の認知機能不全症侯群は人間の認知障害と類似すると言われており、2007年の報告では以下のような症状が出やすいと言われています。

発症年齢は以下の通りで、高齢になるにつれて発症しやすくなってきます。

日本犬に好発するという報告があり、日本犬以外ではヨーキーが多いと言われていますが、今回のように他の犬種でも起こりえます。

今回のように、飼い主様が行動の変化に気づき、診断に繋がることはまれで、夜泣きやトイレの失敗などの問題行動から診断されることの方が多いです。

また、症状を飼い主様が認識されていなかったり、年のせいにされている場合が多いです。

進行してくると、わんちゃんでは夜泣きが問題となってくることが多く、このせいで飼い主様が寝られなくなったり、近所迷惑になってしまうことも少なくありません。

夜泣きでどうしようもない状態になってからでは、サプリメントや薬物療法に対する反応が悪いので、初期段階での治療開始がおすすめです。

当院では、少しでもこの病気を早期診断するために、認知機能を見ることのできるアンケートなども実施しています。

認知機能不全症候群は命にかかわる病気ではありませんが、進行してしまうとわんちゃんと飼い主様のQOLを非常に落としてしまう病気です。完治させられるものではないので、できるだけ早期に治療を開始し、その進行を緩めてあげることが重要です。

認知機能不全症候群が気になる方は是非一度ご相談ください。

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