こんにちは。横浜市旭区善部町のあらた動物病院、院長の小林 新です。
今回は猫で稀に見られる、腫瘍と間違えられやすい消化管疾患の紹介です。
症例は5歳のスコティッシュフォールドさんです。猫じゃらしの先端を飲み込んでしまってから食欲不振と嘔吐が続くとの主訴でした。
画像の検査をさせていただいたところ、小腸の一部で拡張が認められ異物による消化管閉塞を疑いました。また、この時に胃の出口(幽門)の肥厚も認められ、近くのリンパ節の腫大も認められました。
オーナー様と相談し即日手術を実施しました。
小腸は拡張しており、その先には猫じゃらしが詰まっていました。腸を切開し、異物を摘出しました。
また、胃の出口(幽門)には硬い腫瘤(しこり)がありました。
腫瘤は、胃の出口(幽門)を取り囲むようにできており、膵臓も近いことから手術による摘出は困難と判断しました。
腫瘤の診断をすすめるために針生検を実施しました。
針生検では、少数の細菌と炎症細胞が取れてきました。この細胞診の結果から診断をすすめることは難しいので、腫瘤の一部をとってくる組織生検を実施しました。
診断結果は、『好酸球性硬化性繊維増殖症(GESF:Gastrointestinal Eisinophilic sclerosing fibroplasia)』という病気でした。
好酸球性硬化性繊維増殖症(GESF)は猫の消化管とリンパ節に発生する炎症性の腫瘤です。原因と発生機序は明らかになっていません。なんらかの遺伝的な素因が関与し、消化管壁内に侵入した微生物(細菌やカビ)などに対して過剰な免疫反応が起こり、腫瘤が形成されている可能性などが考えられていますが、詳細は不明です。
発症は、若齢から高齢まで幅広く、様々な品種での発生が報告されています。
主な症状は慢性的な嘔吐、下痢、食欲低下、体重減少です。
本症例も異物を飲み込むかなり前から同居猫ちゃんより吐きやすく、その症状が出始めてからかなり痩せてしまったとのことでした。誤食したことにより偶発的に見つかったものですが、症状はでていたため、今回見つかったことで、診断、治療につなげることができ良かったです。
ステロイドと抗菌薬による治療を開始しました。
治療開始から吐かなくなり、体重増加も認められました。超音波検査でも胃壁の肥厚は改善してきました。今後は、調子をみながらステロイドを減らしていく予定です。
本疾患は腹腔内に腫瘤を形成するため、画像検査では腫瘍のように見えてしまいます。しかし、腫瘍ではなく炎症性疾患です。適切に診断・治療を行えば長期生存できる症例も少なくないため、猫の消化管腫瘤を診断する際にその可能性の1つとして考えておく必要があります。
まだ、若い子であったので腫瘍ではないことがわかり、オーナー様にも大変喜んでいただきました。私自身もとてもうれしかったです。
腫瘍にみえる病変であっても、腫瘍ではないこともあります。腫瘍の可能性があると言われた時点で諦めてしまうのではなく、お困りの際は是非一度ご相談ください。