症例紹介

症例紹介:原発性上皮小体機能亢進症

こんにちは。横浜市旭区善部町、あらた動物病院 院長の小林新です。
今回は、2か月前から水を飲む量が増え、徐々に元気がなくなり、食欲が落ちてきた、12歳のトイプードルの女の子を紹介したいと思います。

このような主訴であったので、まずは腎機能低下を疑い、血液検査を実施しました。
検査の結果、腎機能は問題なく、代わりに顕著な高カルシウム血症Ca:>16.0mg/dL測定上限を超える)が認められました。高カルシウム血症の代表的な症状は多飲多尿で、活動性の低下や食欲不振が認められることもあります。カルシウムの上昇の背景には何らかの疾患が隠れていることが多く、その原因として一番多いのは腫瘍性疾患に伴うものです。12歳ということもあったので、精査のために尿検査・画像検査を実施しました。

一般的な画像検査では、高カルシウム血症を引き起こすような原因は何も見つかりませんでした。

ここである疾患を疑い、頸部の超音波検査も実施しました。通常頸部の超音波検査は、大人しい子でしか実施できない検査で、場合によっては鎮静処置が必要になってきます。この子は検査に協力的な子であったので鎮静なしで検査を実施することができました。

頸部の超音波検査の結果、カルシウムの量を調節している左側の上皮小体という臓器が2か所腫れていることがわかりました。上皮小体は副甲状腺とも呼ばれる臓器で、頸部の甲状腺にくっつくような形で存在しています。ホルモンを出すことでカルシウムの調節をしている臓器です。

ここが腫瘍化すると、カルシウムの産生を増加させるパラソルモン(PTH)というホルモンが過剰に作られ高カルシウム血症になってしまいます。追加でパラソルモン(PTH)の測定を実施しました。

イオン化カルシウムとパラソルモン(PTH)の値は私がこれまで見たことがないぐらい高値でした。この結果から高カルシウム血症の原因は、上皮小体由来のものと考えました。

最初は、オーナー様の希望で利尿剤やステロイド、静脈点滴などの内科治療を実施しましたが、どれも治療反応は乏しかったです。食欲低下の改善も認められず、状態も落ちてきたため、上皮小体の腫瘤を外科的に摘出することとなりました。

こちらが摘出した腫瘤です。上皮小体は4㎜を超えてくると腫瘍の可能性があると言われています。左側の上皮小体が2つとも腫れていましたので切除しました。


病理検査の結果です。

術後から徐々にカルシウム値は下がり続け、術後14時間後にはカルシウム値が8.9mg/dLとなりました。低カルシウム血症を予防するため、ビタミンD製剤による補充療法を行いました。
おそらく過剰なパラソルモンの放出が長い期間持続していたため、他の上皮小体からの分泌は少ない状態になっていた影響だと思われます。

カルシウムの値はその後安定し、食欲も元気も改善したため退院となりました。その後も、再発もなく元気に過ごしてくれています。
オーナー様が大事に飼われている子で、この子が最後の子になると思うとおしゃっていましたので、症状が改善してくれて本当に良かったです。

原発性上皮小体機能亢進症は上皮小体から パラソルモン(PTH)の分泌が自律的に亢進することで高カルシウム血症を示す疾患​です。比較的まれな疾患ですが、本症例のように顕著な高カルシウム血症とそれに伴う多飲多尿などの症状が特徴で、健康診断でみつかることもあります。
上皮小体が過形成や腺腫などの良性病変であることがほとんどで、手術により異常な上皮小体を切除することでカルシウムも正常化し予後が良好といわれています。
まれに、術後に低カルシウム血症が起き、重度になるとけいれん(テタニー)を起こすことがあるので、注意する必要があります。
本症例は、早い段階から術後カルシウムが下がり始めましたので心配しましたが、ビタミンD製剤によりすぐにカルシウムの値は安定しましたので良かったです。

カルシウムのことなどで気になるところがありましたら、いつでもご相談ください。

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